6. 部会・研究会アニュアルレポート
生体関連触媒研究会
1.研究会の目的
昭和60年に発足した「モレキュラーキャタリスト委員会」から「酵素類似機能を有する触
媒研究会」を経て、平成3年に「生体関連触媒研究会」として発足した経緯がある。この間、
生体触媒機能を触媒研究のサイドから探求することの重要性を示し、シンポジウムの開催を 通じてこれまで触媒学会に関心の無かった人々に触媒学会を紹介する機会を提供し、さらに 学会会員の増強などを目的とした活動を行ってきた。
さて、最近の生物無機化学研究の重点はモデル錯体の構造解明から機能発現へと移行し、 単なる機能モデル錯体合成から実用触媒開発の段階に入ってきた。さらに、分子生物学の進 展に伴い生体触媒である酵素の機能が分子レベルで解明されるに至り、酵素とモデル錯体と が同じ土俵で議論できる時代となっている。このような情勢の中で、本研究会の果たす役割 はこれからさらに大きくなるものと考えられる。
均一系触媒研究では有機金属化学が長年中心的な役割を果たしてきた経緯があり、現在で もその重要性は薄れていない。一方、酵素に代表される生体触媒は、均一系触媒の開発に多 くの示唆を与えてきた。また、生物無機化学の進展とともに新しい配位子が次々と合成され、 制御された反応の実現が可能な状況となってきた。このような状況の中で、この分野で活躍 する代表的な研究者から若い研究者までを含む本研究会の存在意義は極めて大きい。生体関 連触媒の研究分野において今後も触媒学会がイニシアティブをとり続けるためにも、本研究 会の継続的な活動が不可欠と考えている。
2.研究会活動の概略・動向・展望
(1)第119回触媒討論会においてポスター発表「生体関連触媒」セッションを担当
・ 平成29年3月22日(水)、首都大学東京 ・ 一般講演2件
(2)第120回触媒討論会において討論会A「生体関連触媒」セッションを担当
・ 平成29年9月12 日(火)、愛媛大学
・ 特別講演:名古屋大学 渡辺芳人
「化学の視点で金属酵素を設計する」
・ 依頼講演:同志社大学 人見 穣
「カルボキサミド配位単核非ヘム鉄錯体を用いた選択酸化触媒の開発」 ・一般講演:7件(内A2講演2件)
(3)2017年度先端錯体工学研究会年会を共催
2017年8月21日、大阪市立大学(大阪市)
(4)2016年度第2回人工光合成研究拠点講演会を共催
2017年2月1日、大阪市立大学(大阪市)
「水素エネルギー社会への技術開発」眞中雄一(産総研)
(5)2016年度第3回人工光合成研究拠点講演会を共催
第三編 触媒学会活動記録
「担体・金属間の相互作用を活かした有機合成用固体触媒の開発」和田健司(香川大 学)
「担持合金ナノ粒子の構造と触媒作用 選択的物質変換と水素製造」宍戸哲也(首都大学
東京)
(6)2017年度第1回人工光合成研究拠点講演会を共催
2017年 8月 1日(木)、大阪市立大学(大阪市)
「金属ドーピングが電子-正孔再結合を抑制する メカニズム:SrドーピングしたNaTaO3
光触媒」大西 洋(神戸大学)
(7)2017年度第2回人工光合成研究拠点講演会を共催
2017年 11月 28日(火)、大阪市立大学(大阪市)
「非酸化物系光触媒を用いた可視光水分解系の開発」東 正信(京都大学)
「ソルボサーマル法による機能性材料の創製と その触媒応用」細川三郎(京都大学)
(8)2017年度第3回人工光合成研究拠点講演会を共催
2017年 12月 20日(水)、大阪市立大学(大阪市)
「再生可能資源を原料とする高機能・高性能バイオベースポリマーの創製」竹中康将 (理研)
「担持金属触媒の水素エネルギー変換プロセスへの応用」永岡勝俊(大分大学)
「太陽光水素製造に向けた可視光応答性混合アニオン型 光触媒の開発」阿部竜(京都大
学)
(9)今後の展望
今後も引き続き生体触媒、生体関連化学に関する研究者も積極的に講師として招き、討論 会セッションや講演会・シンポジウムの開催・共催を通じて触媒学会へ新しい情報を提供で きるよう研究会のホームページ(http://www.shokubai.org/com/baio/)を利用するなどして努 める。
3.世話人代表
天尾 豊 〒558-8585 大阪市住吉区杉本3—3−138
大阪市立大学複合先端研究機構
TEL:06-6605-3726 FAX: 06-6605-3726 E-mail: amao@ocarina.osaka-cu.ac.jp
4.研究のトピックス
渡辺芳人(名古屋大学)第120回触媒討論会特別講演「化学の視点で金属酵素を設計する」:
生物界に広範に存在するシトクロム P450 は、薬物代謝や解毒、ホルモンの生合成などに
関連した不活性な有機化合物基質を水酸化する強力なヘム酵素群であり、その有機合成反
応への利用が期待されている。P450を基盤として様々な有機反応への展開について、本来
の基質に構造が類似しているが、それ自体は酸化の基質とはならず、P450の活性化のみを